筋肉は伸び縮みをする組織ですが、バセドウ病眼症では外眼筋(眼を動かす筋肉です)が病気に侵された結果、『伸びる』能力が失われます。最も侵されやすいとされているのは下直筋という眼を下に向かせる筋肉ですので、下直筋を例にとって、説明します。
下直筋がバセドウ病眼症になると、伸びなくなって、眼は下を向いたままになり(「拘縮」と言います)、複視(両方の眼で見ると物が二重に見えること)がおこります。
そこで手術では、この下直筋を一度眼球から外し、より後方に縫い付け直すことで、眼が上を向けるようにします。
それにより、二重に見えるエリアが減ります。(複視の改善)
なお、下まぶた(下眼瞼)と下直筋は連動しているので、これを後方へ移動させると下眼瞼も後ろに下がってしまい、いわゆる三白眼(下眼瞼後退)になってしまいます。それを防ぐために、下眼瞼を後方へ引く組織に大きな切開を加える必要があります。
ここまでの手術は、とても痛いので、全身麻酔下で行います。しかしそれでは、どの程度、一つに見えるようになったか分からないので、数時間後(夕方)、再び手術室に来て頂き、今度は局所麻酔下で、見え具合を最終調整します。
同じことが内直筋、上直筋、外直筋といった他の外眼筋で起こる場合もあり、斜視の種類に応じ、それぞれの筋肉に対して、同じような手術を行います。
手術時間は、全身麻酔部分が90分、局所麻酔での最終調整を40分で予定します。
4日間を予定します。術翌日は眼の表面の荒れで、痛いことがあるからです。
結膜下出血
手術では必ず出血します。術後しばらく白目に内出血の形で残りますが、1週間程度で自然軽快します。
結膜充血
結膜下出血同様必ず発生します。自然軽快しますが、1ヶ月程残ります。
疼痛/異物感
術後しばらく疼痛や異物感があります。自然軽快しますが、痛みが強い場合は、鎮痛薬の座薬や内服を使用します。
斜視の低矯正/過矯正と戻り
手術により斜視は改善しますが、眼が病気以前のように動くわけではありません。正面、日常生活で重要な少し下を見て複視が無くなることを目標としますが、残存する場合があります。動かし足りないことを低矯正、動かし過ぎを過矯正、といいます。
また術後しばらくして、複視が悪化する「戻り」がおこることがあります。程度によりプリズム眼鏡や追加手術を考えます。
回旋斜視
下直筋や上直筋を後方に移動させると、眼球に回転する力が加わることが多く、これを回旋斜視といいます。
「片方の眼での見え方に角度がついている」というふうにおっしゃる患者さんが多いようです。しばしば術前からある症状です。
これを避けるため、筋肉の移動方向に工夫をしますが、術後残る場合があります。
眼球穿通
手術の際に、縫合針が眼球に貫通する場合があります。網膜剥離や眼底出血の原因となるため、眼底検査を行い、必要であれば冷凍凝固などの処置を行います。
肉芽形成
術後に傷口が盛り上がることがあります(肉芽形成)。
副腎皮質ステロイド薬を用いた点眼治療を行います。
下眼瞼後退
下直筋の拘縮がきわめて高度な場合は、下眼瞼を牽引する組織を十分切開しても、三白眼になってしまう場合があります。